#010624

金曜日。
乗車した電車で空席を探し、車両を移動したときに頭を強打した。
背が高すぎることで良いことなんて何一つない。

いつもはたんこぶができて痛打時の痛みだけで済んでいたが、この日はその後もずーっと内側に張り付くような痛みがあったので「これは内部出血でもしているか?」と思うようになった。

それなら帰社後に病院へ行こうと思い、最寄りの脳外科へ連絡。しかしあいにくと学会でお休みの録音留守電が再生された。土曜日は晴れの予報だったのでどこか行こうと思っていたが、仕方なく病院へ行くかーとぼんやり考えた。
しかしふと脳の出血ならこのまま逝去できるチャンスなのでは?と思い至り、それなら部屋と冷蔵庫を綺麗にした後、最後の飲酒を洒落込むことに決めた。

帰り道にここ数年でよく通うようになった角打ちで生ビールを数杯飲もうと立ち寄ったが、1杯飲んだら「もういいや……」と突然飽きてしまったような感覚に陥り店を出た。
そこからは自室までの道を月明かりの中、トボトボと歩いた。
意外と最後だと思ってせっかくだからとやろうとすると何もできないし、あまり満たされないことに気づいた。空虚だ。

部屋に帰り、まずは冷蔵庫の中にある傷みやすそうな物をすべてゴミ袋に入れ、ごみ集積所に投げ込む。トイレと風呂を掃除し、あとは掃除機をかけるくらいかと思ったが、さすがに深夜に掃除機は迷惑すぎるから許してもらおう。
最低限、これで起きることができず死体になったとしても腐臭になる割合は減らせるはずだ。

その後は風呂で身綺麗にし、最近お気に入りのシンレモンサワー500mlを飲みながら、最後に何をしようかとパソコンでやることを探したが、何もなかった。

最後にしたいことって一体何なんだろうか。
ベランダに出て、静まり返った町並みと遠くにそびえたつ塔をぼんやりと眺めながら、そんなことを考えたが、本当に特に何もなかった。意外と満ち足りた人生だったのかもしれない。そんなことを考えていると、ふと「なんとなく気が済んだ」そんな感覚になった。

これでもし目が覚めることなくても、それはそれでいいや。
そう思いボクは布団に横になった。


で、結論としては普通に目が覚めた。
なんだよ、せっかく……という残念な気持ちと、「こうして今日もまた世界は続くのでした」というままならない世界のナレーションが聞こえた気がした。

一応土曜日に脳外科へ赴き、MR検査をした。(¥7,000)
「何の異常もないですね。ご安心ください。とても綺麗な脳です」
という褒め言葉なのか悩む診断を頂いた。

辛谷園。

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